東京地方裁判所 昭和44年(ワ)9888号 判決
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〔判決理由〕一 原告が、昭和四四年九月一一日存続期間の満了によつて消滅した本件特許権(編注―発明の名称 自動露出指示写真器 出願日 昭和二七年一一月二〇日 公告日 昭和二九年九月一一日 公告番号 昭和二九―五七八四 登録日 昭和三〇年三月二二日 特許番号 第二一二、三三二号)の特許権者であつたこと、本件特許権の特許請求の範囲が「本文に詳記し且図面に例説する如く、露出計用光電体を絞り及びレンズ系を装備せる鏡筒背後に位置する写真器暗函の内部に装備し且指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなることを特徴とする自動露出指示写真器」であることは、当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実によれば、本件特許発明の構成要件は、
1 露出計用光電体を絞りおよびレンズ系を装備せる鏡筒背後に位置する写真器暗函の内部に装備し、
2 指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなる
3 自動露出指示写真器
であると認められる。
三 被告が昭和四一年一〇月一日から同四四年八月末日までの間本件物件を製造販売してきたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件物件は、露出計用光電体を絞りおよびレンズ系を装備せる鏡筒背後に位置する暗函の内部に装備した自動露出指示写真器である点において、本件特許発明の前示1及び3の要件を充足するものであることは明らかである。
原告は、前示本件特許発明の構成要件中2の要件の「指示用計器を写真器包匣壁に裁着すべくしてなる」の「写真器包匣壁」とは写真器の暗函の外側壁の部分という意味であり、また指示用計器を「装着すべくしてなる」というのは、指示用計器を装着することのできる状態のすべての場合を含むから、現実に装着したものはもちろん、現実に装着されていないが、装着しうる状態にあるものを含むと主張するのに対し、被告は「指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなる」の意味は、指示用計器を写真器のもつとも外側の壁に挿し込むか、右壁から引き起して使用可能の状態にしたり、また逆に、抜き出すか、折りたたんで接着し使用しない状態に変化させうる、ということであり、本件物件はそのような構成になつていないから、本件特許発明の技術的発明に属しないと争うので、この点について考える。
四 本件特許発明公報によれば、本件特許発明の一実施例として、露出指示計の一側に挿入脚二本を設け、これを写真器の一側に設けた承口に挿入して写真器に装着するような露出指示計が図示されており、その「発明の詳細なる説明」の項には、「又指示用計器の装着に於ても以上例説せる如き支持脚を以つて挿脱することに限定せず、必要に応じ承口と支持脚部に於て枢着する如くし包匣壁に折畳みて接着する如くも為し得るものにして必要に応じ本発明の精神を出でざる範囲に於て種々設計的変更を行い得るは勿論である」と記載されていることを認めることができ、右図面ならびに文言の記載を総合して特許請求の範囲中の「指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなる」の意味を解釈すれば、「包匣壁」の意味はともかくとして、被告主張のように、指示用計器を写真器の包匣壁に挿し込むか、右包匣壁から引起して使用可能の状態にしたり、また逆に、抜き出すか、折りたたんで包匣壁に接着し、使用しない状態に変化させうるようにしてなる、ということを意味するものというべきである。
原告は、特許公報中の前記挙示の場所を挙げて、指示用計器を包匣壁に装着する具体的な態様については限定がないという主張の論拠とするのであるが、まつたく逆であつて、右記載からは、指示用計器の使用時と不使用時における写真器包匣壁における装着の態様が異なるという限度において必要に応じ設計的変更をなしうるにすぎないとしか解釈のしようがないことは明らかである。
右のような解釈は、本件特許発明の特許出願の経過から考えても、これを是認することができる。すなわち、本件特許発明の特許出願人は、特許出願後昭和二八年一月一四日付および同年六月二六日付で二回にわたつて手続の補正をしたが、その補正後の特許請求の範囲の記載は、「本文に詳記し図面に例示する如く露出計用光電体を鏡筒又は写真器暗函の内部或はファインダー内部又は外側の何れかに装備し、且指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなることを特徴とする自動露出指示写真器」というのであつたが、特許庁審査官は、昭和二八年七月一六日、昭和一三年実用新案出願公告第一七七三一号公報を公知文献として、特許出願人に対し拒絶理由の通知をしたところ、特許出願人は、これに対し昭和二八年九月一五日付で意見書を差出し、その中で「本題に於ては光電素子のみはカメラ中に設置せられるも電流測定の計器部に器外にあり然かも離接自在である、故にカメラに内装した露出計でもなく、この点全く独創的であると思料します。」と述べている。本件特許出願については、さらに二回にわたつて補正がされた後、出願公告を経たものであるが、特許出願から特許査定に至るまで、特許請求の範囲中の「指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなる」との文言は、終始一貫して変らなかつたものである。右のように認めることができる経過から考えても、「指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなる」の意味は前説明のとおり解すべきであることは明らかである。
原告は、特許出願人の右意見書は、昭和二八年九月一五日付であるところ、本件特許明細書は、右の時日以後である昭和二九年一月九日原出願を三個の出願に分割したことに関連して全文を訂正して同日付で提出された明細書であり、この分割による最終訂正明細書に対しての意見書ではないから、本件特許発明の要旨の解釈については参考となりえない旨の主張をする。本件特許出願人が当初の特許出願を三個の特許出願に分割したことは……これを認めることができるが、その分割の可否についてはともかくとして、本件特許発明に関しては、その分割の前後を通じて、その要旨がまつたく同一のものであることは……明らかであるから、特許出願人の右意見書が分割後の最終訂正明細書についての意見書ではないとしても、本件特許発明の技術的範囲を解釈する資料となしえないということはない。なるほど原告主張のように、昭和二九年一月九日付の出願の分割に伴つて最終的に確定された本件特許発明の特許公報中、発明の詳細なる説明の項には「又指示用計器の装着に於ても以上例説せる如き支特胸を以つて挿脱することに限定せず、必要に応じ承口と支特胸部に於て枢着する如くし包匣壁に折畳みて接着する如くも為し得るものにして必要に応じ本発明の精神を出でざる範囲に於て種々設計的変更を行い得るは勿論である。」との記載があることは、前説明のとおりであるが、このような記載が付加されたからといつて、前記の昭和二八年九月一五日付の特許出願人の意見書の記載がまつたく無意味になつてしまうものでないことは前説明からおのずから明らかである。原告の主張は理由がない。
五 右に説明したとおり本件特許発明の必須の構成要件である「指示用計器を写真器包匣壁に装着すべくしてなる」の意味は、「指示用計器を写真器包匣壁に挿し込むか、包匣壁から引き起して使用可能の状態にしたり、また逆に、抜き出すか、折りたたんで包匣壁に接着し、使用しない状態に変化させうるようにしてなる」の意に解すべきものであるところ、本件物件における指示用計器はボデイ本体に固着されていて、使用時と不使用時とにおいて装着の状態を異にするようなものではないから、すでにこの点において、本件物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。
六 原告は、TTL方式のカメラでさえあれば、その方式以外の点でどのような構造をもつカメラであつても、全部本件特許発明の技術的範囲に入つてしまうかのような主張をしているが、その主張のとりえないことは前説から明らかである。なお、TTL方式の技術は、本件特許出願前において日本国内において頒布された刊行物に記載されており、公知のものであつたとの被告主張は、原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなされるところではあるが、本件特許発明は、TTL方式によるカメラであることを唯一の要件とするものでないことは前説明のとおりであるから、刊行物による公知とは真実の意味で公知であつたことを要するか否かについての原告の主張については、当裁判所としての判断を示すまでもないことである。
七 以上のとおり、本件物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しないから、これが属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点についての判断をするまでもなく失当であること明らかである。よつて、これを棄却する。
(荒木秀一 高林克己 野沢明)